ネジの外れたジャグバンド Thee Oh Sees(ジ・オーシーズ)

 Youtubeジャグバンドの演奏を観ていると、その陽気で牧歌的な雰囲気に思わず心がウキウキしてしまう。その中でも最近特にお気に入りなのがThe Perch Creek Family Jugbandという家族でやっているジャグバンドの演奏だ。(Familyと名乗っているんだからきっと家族なんだと思う)

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 母親がバンジョーをかき鳴らし、それに合わせて子どもたちが軽快なソロを演奏する。メガネをかけたワンピースの少女は見事なギターとタップダンスを披露してくれる。このバンド、演奏ももちろん素晴らしいのだが、それぞれのファッションがまたアメリカらしくて良い。こんな見た目なのでてっきりアメリカを拠点に活動しているのかと思ったら、オーストラリアはメルボルンのバンドだという。

 ぐんぐんと前進していくバックビートの力強さはドラマーのいるバンドにも引けをとらない。エイトビートはこのような音楽的土壌から生まれてきたのだと改めて実感させられる。そんな彼らの演奏する姿を観ていたら、ふとThee Oh Seesというバンドのライブ映像が脳裏に浮かんだ。

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 Thee Oh Sees(ジ・オーシーズ)はアメリカ、サンフランシスコを拠点として活動するガレージサイケバンドである。フロントマンJohn Dwyerを中心に97年から活動しているというから、かなりのベテランバンドだ。メンバーは流動的で、2016年現在はギターボーカル、4弦ベース、ツインドラムという構成で活動している。上の動画は2012年のもので、ギターボーカル、ドラムは一人、シンセボーカル、6弦ベースという構成だ。ガレージ、サイケ、クラウトロック、ハードロックなどの影響を受けながら独自に昇華させた音楽性がピッチフォークなどのメディアから高く評価されている。

 短パン、コンバース、ネルシャツ、ジーンズ、タトゥーなどなど。いかにもアメリカンな出で立ちの彼らからは最初に紹介したジャグバンドのようなどこか牧歌的な気配も感じられる。しかしパフォーマンスを見るとその印象は一瞬で吹き飛んでしまう。ジョンはよだれを垂らしながらギターを弾き、ベースのピティ・ダーミットはテーピングだらけの左手で指板を抑え、シンセのブリジット・ドーソンは髪を振り乱しながらタンバリンを叩き、ドラムのマイク・ショーンは何かに耐えているかのようにひたすらストレートなエイトビートを刻む。カントリーミュージックの持つ素朴さ、陽気さはギターのフレーズなどから時折感じ取る事ができるが、そのどれもが強烈に捻じ曲げられ、突き抜けた狂気さえ感じるバンドサウンドになっている。まるで広大な畑のど真ん中で練習を重ねるうちに、だんだんとネジが外れていってイカれてしまったジャグバンドのようだ。

 "ネジの外れたジャグバンド"感はシンセのブリジットとベースのピティの見た目による部分が大きかったので、メンバー構成が変わった現在はそのような印象は鳴りを潜めている。しかし、彼ら本来の持ち味であるライブの爆発力は全く衰えていない。以下は彼らが今年のSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出演した際の映像だ。

Thee Oh Sees - SXSW 2016 - Hotel Vegas - YouTube

 Thee Oh Seesは今までに何度か来日公演も行っているようなので、今度来日する機会があるなら、是非ライブで彼らのサウンドを体験してみたい。