シカゴ

 君が煙草の灰を落とす指の動きが、どことなくぎこちない事に気がついてしまったせいで、僕は君に悪い事をしているような気分になった。君にしたって、僕の前でそんなぎこちなさを演じるつもりはさらさらなかったに違いない。僕に気取られた事に気がついた君は、すぐに煙草をもみ消し、何も無かったかのように振る舞って見せた。そうする事がかえって自分が動揺している事の証になるのだと君は思ったかもしれないし思わなかったかもしれない。とにかく君は煙草を消した。そして僕はそれを見ていた。僕たちがどうしようもない袋小路に入り込んでしまっているのは火を見るよりも明らかだったし、疑念を挟み込むような余地はこれっぽっちもありはしなかった。もしかしたらこんな事は全部僕のくだらない思い込みなのかもしれない。ほんの少しの環境や状況の違いが、当たり前の景色を全く違うように見せる事だってあるのだ。それにしても、その時の君はいつもとどこか違って見えた。率直に言えば、君は僕に隠し事をしているように見えた。だが、君が僕に何を隠す必要があるのだろう?どうしてこんなふうにすれ違う必要があるのだろう?君が浴びているシャワーの音が、いつまでも僕の頭の中で鳴り響いていた。

「シャワーありがとう、もう帰るね」

君はどこか申し訳無さそうにそう言って、そそくさと僕の部屋のドアを開けた。君はドアを開けながらほんの少しだけ僕の方を振り返った。僕はその表情から何か大事なメッセージを読み取ろうとしたのだが、ドアの隙間から射し込む朝日が逆光になって、君の顔はよく見えなかった。