創作

金魚中毒

こんなところに<金魚屋>があったなんて、わたしは全く知らなかった。 わたしはこの街にやってきてもう20年になる。 職場に向かう途中にあるこのうらびれたシャッター街を、わたしは毎日のように通る。 しかし、<金魚屋>の事は全く知らなかった。 こんな…

スネイク・ハント

"走っても疾(はや)過ぎることなく、また遅れることもなく 「世間における一切のものは虚妄である」と知っている修行者は、 この世とかの世とをともに捨て去る。 ――蛇が脱皮して旧い皮を捨て去るようなものである。" - ブッダ 骨董品のような扇風機と27歳の…

We (don't) know what we've got.

僕の父の父は僕が小学校四年生の時に死んだ。悪化した肺がんが心臓にまで侵食してきて、最後は相当な苦痛の中死んでいったらしい。「煙草が吸いたいわけじゃない、煙草をつける火が見たいだけなんだ」そう言いながら父の父はいつも煙草を吸っていた。「火が…

<そうめん屋>と髑髏の話

わたしはこの季節になると<そうめん屋>の事をよく思い出す。わたしが幼かった頃、<そうめん屋>は毎日決まった時間にやってきてはそうめんを売っていた。 ”おいしいそうめんあります” それが<そうめん屋>の出していた唯一の看板だった。 几帳面な学者*1…

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サイレンが鳴っている

サイレンが鳴っている ここはどこだ? 俺は何をしているんだ? 体が重い 地面が硬い アスファルトか? なんで俺はこんなところで寝ているんだ? ―あの人、大丈夫かしら? サイレンが鳴っている 遠くの方から ゆっくり ゆっくり 近づいてきているのか ―病気?…

郊外のショッピングモールで見つけたもの

今日僕は友達と郊外のショッピングモールへ行った。 僕はあまりショッピングモールが好きではない、お店も物も多すぎるし、あまりにも資本主義的すぎる空気感が苦手で、いつからかあまり行かなくなっていた。 何も買うつもりはなかったのでとりあえずぶらぶ…

知っているぜみんなただの寂しがりやって浅井健一の声が今日もヘッドホンから脳髄に染みるような午前2時に俺は酔っ払っている

俺は酔っ払っている猛烈に強烈に壮絶に猥雑に俺はいつからこんな酒浸りになっちまったんだストロングゼロよお前は俺をどこへ連れて行こうというのかお前は俺をとことんまで破滅させるつもりなんだろう俺は雑草のように強くしぶとく生きるくらいならバラのよ…

忘れちまったよ

俺は何かを忘れちまった 何を忘れちまったのかももう忘れちまった でも何かとんでもなく大事なもんだってのはわかってるんだ ただ思い出せないだけなんだ ただ思い出せないだけなんだ そいつは時々俺の頭の中で鈍く疼く 思い出してくれ 思い出してくれってな…

ひとりぼっちおばけがやってきた!

トントントン!トントントン! れいぎ正しくドアをたたく音でさくらは目をさましました。 ねむい目をこすりながらとけいを見るとまだ夜中の3時です。 「こんなじかんにいったいだれかしら それに、ママとパパはなぜ気付かないのかしら」 さくらはふしぎに思…

ある地球人の感情の記録 #1:嫉妬

「その時の衝撃は、とても言葉で言い表せるようなものではありませんでした。私の耳元で誰かが大きな大鼓を打ち鳴らしたような気分で、最初何が起こったのか全くわかりませんでした。しかし、間違いなく、その時、目の前にはAと、 Mがいたんです。それは間違…

"君"と"僕"

久しぶり、元気にしてた? ちょっと、ぼんやりした顔してないで、そうそう、君の事だよ、やっと気づいてくれた? 僕は君に話してるんだよ、最初からずっとね、 最近ちょっと疲れてるんじゃない? 恋愛の事とか、仕事の事とか、それを取り巻くいろんなごちゃ…

"僕"とは何か

今、僕は文章を書いている。 今、僕が文章を書いている。 今、タイプして、タイプして、一つのリズムを作り上げている。 今、今がただ過ぎていく。 今、僕はそれを見過ごすわけにはいかない。 今、今、今、 今、何か別の事を考えた。 今、また僕が僕でなくな…

君はかつて少女だった

僕はバーテンダーをしている。 賑やかな駅前から少し離れたオフィス街の中にある小さなバーで。 BGMはジャズ、特にこだわりがあるわけではない、オーナーの方針なのだ。 忙しいお店ではないけれど、特別暇なわけでもない。 いろんな人がやって来て、酒を飲み…

秋はセンチメンタル

あんなに元気に鳴いていたセミたちはもういなくなってしまった。燃え盛る太陽の光を浴びて青々と茂った草木や花たちも、もうじき何かの役目を終えたかのように枯れていってしまうだろう。お気に入りのTシャツやサングラスや短パンももう着れなくなる。花火は…

たまらなく絶望してる君への殴り書き

やぁ、久しぶりだね、こんな風に君と話をするのは。元気だったかい?僕は相変わらずってとこかな、ブロンだって全然やめてないし、死にたくなる日なんてしょっちゅうあるよ。で、今日は何の用かって?いや、特にこれと言って特別な用事があるわけじゃないん…

どろぼう

ある晴れた日の昼下がり 君は突然姿を見せた やあこんにちは 私はどろぼう にっこり笑いそう言った 疑う余地もないほどに 君は確かなどろぼうだった するりと僕の 鍵を開けると 全てを奪い去っていった ねえあのときのどろぼうさん 君は一体どこにいるのか …

夏の終わりの短い夢

僕はピアノの音に耳をすませていた。西日の差し込む部屋に、君がぎこちなく弾くピアノの音が静かに染み渡っていった。僕はソファに横になり、いくつもの音が浮かんでは消えていく様子を頭に思い浮かべた。僕の頭の中で何かざわざわした感触があった。僕は遠…

ありふれた失恋の話

気まずい沈黙の間で、周りのテーブルの賑やかな音が行き場を失くして消えた。 君の飲むグレープフルーツジュースの氷がカラカラと音を立てて崩れた。 食事を終えた僕は黙って君の後ろにある大きな窓の外を眺めていた。 季節は冬で、街にはいたるところにイル…

シャンペイン・スーパーノヴァ

君はあのクレイジーな体験のあと、無事に日常生活に戻ってきた。以前と何ら変わりない、ありふれた日常だった。決まった時間に起き、シャワーを浴び、髭を剃り、服を着替えて、満員電車に乗り込む。世界は君がいてもいなくてもお構いなしであるかのように移…

シェイク・マリファナ・シェイク

起きてください、大丈夫ですか?あなたはどこから来たのですか? 2017年5月某日、雨季を目前に控えたラオス山間部の小さな町###。町をゆくのはヒッピーの面影を残す欧米人バックパッカー達、セルフィースティックとブランド服で身を固めた韓国人旅行者達。一…