忘れちまったよ

俺は何かを忘れちまった 何を忘れちまったのかももう忘れちまった でも何かとんでもなく大事なもんだってのはわかってるんだ ただ思い出せないだけなんだ ただ思い出せないだけなんだ そいつは時々俺の頭の中で鈍く疼く 思い出してくれ 思い出してくれってな 俺は遠く遠く頭の中から響いてくるその声に耳をすますけど 結局何も見つけ出すことができない 悲しくなっちまうだけだ 悲しくなっちまうだけだ ただ一つわかってるのは 俺は何か大事なものを確かにもう忘れちまってるってことだけなんだ 思い出せないんだ 思い出せないんだ そいつが俺をひどく不安にさせる そいつが俺をひどく孤独にさせる そいつが俺をひどく悲しくさせる そいつが俺をひどく痛めつける 今俺は何かを忘れたい 忘れたいから酒を飲む 忘れたいから酒を飲む 何をそんなに忘れたいのかって? そんなこともう忘れちまったよ ハイになった観客の前で演説する海兵隊の少佐 サーカスのライオンが6番街のブティックの試着室で眠っている タクシードライバーはくしゃくしゃになったドル札をセントラルパークの乞食の前で破り捨てる ハドソン川では今日34人目の水死体が見つかった ブルックリン橋の真ん中で引退したボクサーが詩人の頭にリボルバーを突きつける 95年型のキャデラックに乗ったサックス奏者は下水道のネズミを追いかけ続ける ハーレムのキャバレーで黒人たちがブルースを口ずさみながら馬鹿でかいサイボーグを組み立てる ロングアイランドの廃墟では今日もリッチな幽霊達がヴィクトリアシークレットのモデル達と乱交パーティを繰り広げる そんな狂った街のど真ん中で俺は白いラインを鼻から勢いよく吸い込む ジーン・クルーパが派手なドラムソロを俺の脳内でブチかます いけ!いけ!いけ!もっとだ!もっとだ! 狂っている 狂っている ここには何もかもがあるし 何もかもがない 全ては幻なんだよ お前だって知っているんだろう? そして俺はすべてを忘れちまった 忘れちまったんだよ ドンドンドン!ドンドンドン!シンバルを打ち鳴らせ! ド派手なホーンで踊らせてくれよ おい どうしちまったんだよ おい おい おい なんだってんだくそったれが! 一体全体どうなっちまってんだ 俺は狂ってしまったのか? いや 違うね 狂っているのはお前のほうなんだから それだけは確かだぜ 俺はこんな街今すぐにでも飛び出して カリフォルニアででっかいぶどう畑でも始めるつもりさ 夏になったら手紙を書くよ たまには遊びに来てくれよ お前のいるそこはあまりにも寒いし 汚いし うるさいし 狂っちまってる まったくどうしたんだよ そんなしけたツラしないでくれよ 何度でも言うぜ 狂ってるのは俺じゃない お前なんだよ 俺が誰だかわからないのか? 忘れちまったのか? ああ 少し一人にしてくれないか ヴェイリウムとバーボンがあれば お前と 俺が 何を忘れちまったのか もっと忘れられるかもしれないからな