自傷行為はやめられる? リストカットならぬ太ももカットにふけっていた頃の話

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※出血などの生々しい描写があります。

 リストカット自傷行為のいわばシンボルのように扱われる事が多い。メンタルヘルスに関心のない人の中には、自傷行為と聞いてすぐにリストカットを思い浮かべる人も多いだろう。実際には自傷行為という言葉にはリストカット以外にも様々な行為が含まれる。根性焼き、薬物のオーバードーズ(過剰摂取)、瀉血、爪を噛む、髪の毛を抜く…などなど、実に様々なバリエーションがあるのだ。ただ、やはり自傷行為の中で最もポピュラーなのはリストカットに代表されるように刃物を用い、出血を伴うものであることが多いだろう。僕も一時期、自傷行為を癖のように繰り返していたことがある。

 ところで、2chのスレッドなんかを覗いてみると、男性のリストカット率の低さについて言及している人をちらほら見かける。確かに、男性でリストカットというのはなかなか聞かないし、ブログもたくさんは出てこない。全く居ないというわけでは無さそうだけれど…

最初は家にあった古いカッターで

 僕が初めて自傷行為をした詳しい経緯はもうほとんど覚えていないが、ただ何となく行き詰まった感情がもやもやとずっと心の中にあった。そんな感情をどうにかして発散、解放したいと思ってたどり着いたのが自傷行為だった。何をしても満たされないもどかしさ、どうしようもない自分を酷く傷つけてしまいたい、そんな気持ちがあったのかもしれない。

 ある夜(季節さえも覚えていない)気が付くと僕はデスクの中から古いカッターナイフを取り出し、太ももを刃の裏側で引っ掻いていた。手首は人目に触れすぎるので太ももにしたのだ。何度か太ももを引っ掻いて痛みの予行演習を終え、今度は刃を太ももに沿え、力を込めて横に滑らせた。次の瞬間、鋭い痛みがあった…だが予想していた程ではなかった、血もそんなに出なかった。きっと心の奥底でブレーキがかかっていたのかもしれない。今度はもっと力をたくさん入れて思い切り切りつけてみた、結果はほとんど同じだった。カッターナイフが古すぎたのだ。

高性能なカッターナイフを購入

 古いカッターナイフでは駄目だと気付いた僕は、早速次の休日に街に繰り出し、こまごまとした道具を買い揃えた。文房具店でオルファの特専黒刃という薄型、高性能のカッターナイフとその替刃を買い求め、そのまま薬局でオロナインとガーゼと絆創膏を買った。準備は万端、僕はまた夜が来るのを待った。

 その日の夜、早速僕は新品のカッターナイフで太ももを切ろうと、皮膚に刃を当ててみた。すると明らかに以前のカッターとは違う鋭い感触が、恐る恐る刃を横に滑らせてみると「刃物で切られるとはこういう事なんだ」というほかに表現の仕様がない冷たく硬質な痛みが走った。全然力も入れてなかったのだが、確認してみると太ももにパックリと3cmほどの裂け目ができている。つーっと傷口から流れる血液を見た時、僕はなんとも言えない興奮と満足感に支配されていた。出血が止まるのを待ち、傷口にオロナインを塗り、ガーゼを当てた。この太ももカットの習慣は数ヶ月ほど続いた。

 自傷行為は癖になる。これは確かだ。自分の血が流れることによって自分の中の黒々とした負の感情が救済されていくような感覚さえ覚えるのだ。ある時僕は大きめの傷を作り、流れ出た血液をコップに溜め、飲んでしまった事がある。空気に触れ少し凝固した血液がどろりと喉を通って行く感覚と独特の臭いは忘れられない。自分で思い返してみても大分ゾッとする話である。

周囲を心配させることへの罪悪感

 何度も太ももを切っていると、大きな傷ができてしまったり。水着や短パンを着る際にはみ出てしまうような部分に傷をつけてしまう事がある。大きい傷ができると治るまで歩き方がぎこちなくなるし、そうするとやはり周囲の人々は訝しげな表情を僕に向けてくる。もともと人に見せびらかすために始めた行為ではなかったし、自傷行為がバレてしまうと奇人変人のレッテルを貼られてしまう。

 ある時、仲の良い友人に傷跡を見られ「これ、どうしたの?」と尋ねられた。自傷痕に言及されるのは初めてだったのでかなり戸惑ったが「昔からの傷だから」と言ってその場は収まった。その後、物凄い後悔が僕を襲った。仲の良い友人に嘘をついてまで体を傷つけてどうするんだろう?友人に無駄な心配をさせてどうするんだろう?そう思った僕は、自傷行為にふけっていた頃がウソのように、すっぱりその習慣を断ち切った。

自傷行為はやめられる

 自傷行為はやめられる。少なくとも自分はもう太ももカットはしていない。あの頃の代償として、左右の太ももにはひと目で切り傷だとわかる大きめのケロイドが7,8個、さらに白線のようになった細い傷跡が数えきれないほどあり、銭湯などに行くととても目立つ。今でも時々傷跡について尋ねられる事があり、そのときはなんとか誤魔化して過ごしている。

 

以下のリンクは自傷行為をやめたいけどやめられない、身近な人が自傷行為を行っている。そんな方のためのガイドラインです。とてもよくまとまっているので、自傷行為に対する適切な理解、またサポートのためにも、是非一度目を通して見てください。

www.rcpsych.ac.uk

 

 

※2018年3月、小説の形で僕の臨死体験をまとめました。よかったら読んでみてください。

thriftbox.hatenablog.com