ブロンという咳止め薬について

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 中島らもはかつてブロンについてこう書いた、「この咳止めシロップの人を縛る力は、酒や煙草の比ではない」(中島らも『アマニタ・パンセリナ』集英社文庫,1999)と。中島らもはシロップ状のブロンを愛用していたようだが、2016年現在、乱用目的でブロンを買う者の殆どは「エスエスブロン錠」を買い求める。僕もかれこれ5年以上この薬とお付き合いしている。僕はこの薬を日常的に使用しているわけではない、たまの暇つぶしに使うくらいだが、使った翌日のだるさはなかなかしんどい。それでも、気が付くと薬局でこの薬を買い求めている自分がいる。日常的な依存より、こういう形の依存の方が、目立たない分厄介だ。

  基本的な事を書いておこう。ブロンはエスエス製薬から販売されている咳止め薬で、80年代の中頃には既にその中毒が問題視されていたという。主な有効成分はジヒドロコデイン(以下コデイン)とメチルエフェドリン(以下エフェドリン)だ、カフェインも含まれているが、これは正直なところ邪魔な成分だ。コデインはざっくり説明するとオピオイド系の薬物で、ヘロインやモルヒネがその親戚みたいなものだが、それらに比べると効果は非常に弱い。エフェドリンは麻黄に含まれるアルカロイドで、覚せい剤の弱体化版のようなものだ。ダウナーのコデインとアッパーのエフェドリン、これらがちょうどいい塩梅でミックスされているので、多くのジャンキーに支持されている。数年前まではブロンカリューというコデインだけが配合された顆粒剤も販売されていたが、今では手に入らない。

 10錠から15錠程度服用すると(最初からあまりたくさん飲むと後がしんどいので、少ない量からはじめよう)最初はカフェインやエフェドリンのアッパーな効果が現れる。コレは「シャキーン」と形容される効きで文字通り気分がシャキーンとなる、掃除や単純作業に非常に向いている。僕もブロンを飲んだ後部屋を2時間ほどかけてくまなく掃除したことがある。数時間経つと今度はコデインの効果が現れる。先ほどまでのシャッキリ感とは打って変わって、コデインはまったりとしたほのかな幸福感を与えてくれる。胸の奥の方からじんわりとこみ上げる暖かく優しい感触は独特で、母親の胎内を漂っているかのような安心感に包まれる。アルコールや睡眠薬と一緒に摂取する人もいるが、プラスに作用するかマイナスに作用するかは時と場合によるので、慎重に行おう。

 ブロンは、合法的に現実逃避したいというジャンキーには丁度いい薬だ、効果も申し分ないし、毎日一瓶空けてしまうくらい深甚な中毒に陥っていなければ、タバコ3箱分程度の値段でしばらく楽しめる。2chのブロンスレッドは何年もの歴史を持つスレで、今でも日夜情報がやりとりされている。ブロン自体、成分が長いこと変わらない薬なので、いまさら有益な情報はあまり見当たらないが、皆それぞれ自分なりにこの薬との向き合い方を模索している。気が向いたら覗いてみるといいかもしれない。

 このブログは薬物の乱用を推奨しているわけではない、みんなで積極的にラリっていこうぜと啓発する目的も無い。つらい現実に直面した時、お酒やドラッグに逃避してしまう人間は一定数いる。社会では負け組のレッテルを貼られてしまうかもしれないが、生まれてきたからにはきちんと生きなければならない。僕はそんな人達に寄り添っていたい。どうか、使用するドラッグについて適切な知識を得て欲しい。自分とドラッグとの適切な距離を知って欲しい。自分は一人ではないということを知って欲しい。ドラッグに溺れ、底に沈み、再び浮かび上がってくる過程の中から、新たな希望を見出して欲しい。このブログを見つけてくれたあなたになら、きっと難しいことではないはずだ。ジャンキーも一つの生き方だと開き直れるくらい、健全に世の中からドロップアウトしよう。

 

 

※2018年3月、小説の形で僕の臨死体験をまとめました。よかったら読んでみてください。

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